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【レビュー】戦国秘史を読んでみた【歴史小説】

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目次

  • ルシファー・ストーン    伊東潤
  • 戦国ぶっかけ飯       風野真知雄
  • 伏見燃ゆ 鳥居元忠伝    武内涼
  • 神慮のまにまに       中路啓太
  • 武商諜人          宮本昌孝
  • 死地奔槍          矢野隆
  • 春の夜の夢         吉川永青

はじめに

歴史小説のアンソロジーです。
以前読んだ「関ヶ原」と「大坂城」がとても面白かったので、期待して買いました。
異なる作者ですので、すごいお得感があります。
また、短編小説ですので、マニアックなところを取り上げられるのも魅力です。
この目次だけ見ても、鳥居元忠以外は、何の話かさっぱり分かりませんねw

 

感想(ネタバレあり)

1.ルシファー・ストーン

いきなりダヴィンチコードみたいな雰囲気で始まります。
堕天使ルシファーの怨念のこもったキリスト教にとって忌むべき石が盗まれ、東洋の果て日本にたどり着き、その石を手にしたものは、ルシファーの力を得てキリスト世界を滅ぼしてしまうとか。そういったファンタジーな話です。
石は信長からその後の主要人物へ転々と渡って行き…といった流れですが、私はあんまりでした。伊東さんの他の作品は好きなだけに、ちょっと残念。

2.戦国ぶっかけ飯

こんなグルメなタイトルの歴史小説初めて見ましたw
ある意味、グルメを極めてシリーズ化したら売れそうなタイトルです。
信長時代の羽柴が毛利を攻めている頃の毛利サイドの話です。
三木城のように、家臣たちを苦しめたくない姫が取ったグルメ作戦!
なかなか奇をてらった面白小説でした。

3.伏見燃ゆ 鳥居元忠伝

やっとまともな歴史小説が来ました!(コラ
タイトルを見てわかるように、関ヶ原の前哨戦、伏見城で籠城した鳥居元忠の話です。家康の人質時代から仕えてきたふるーい家臣です。辛かった駿府時代を半蔵などと共に過ごし、他の家臣たちとは次元の違う結びつきを持っていました。
ワタリ衆と呼ばれた、船を家として河川などを自在に渡って生活をする者たちを率い、その親分が鳥居元忠だそうです。そういう荒くれ者と共に、見事に伏見城の攻防戦となります。さらに、元忠の側室となった馬場民部の娘も絡んできて、話に深みを持たせます。
どうしても関ヶ原の戦に注目してしまいますが、これからはこの伏見城と京極姉弟の大津城の戦いなど詳しく調べていきたいと思いました。

4.神慮のまにまに

「宙のまにまに」のような”萌え”を彷彿させますが、全然違うおっさんくさい内容でした。主人公はなんと甲斐宗運!!キター!マニアックぅぅぅ!
信長の野望で、やたら強いハゲです。この人の話は全然知らなかったので、これはと期待して読みました。
宗運は、阿蘇家の軍師。しかも歴戦負けなしの大軍師。見事な軍略と外交で戦国の世を渡ってきました。長い間、北は大友家、南は相良家と結び、この同盟策が大いに功を奏しました。ところが大友が耳川の戦いで島津家に敗れてから潮目が変わります。宗運自身も、己の内なる神の声が聞こえなくなり、自信を失います。そんな中、相良家は島津に攻められ…と続きます。
悩みながら最善の策に苦悩する軍師、全く苦悩のかけらも心も通じない家族との掛け合い…お、面白い…⭐️3つ!

5.武商蝶人

徳川家の顧問商人として活躍した茶屋四郎次郎の話です。
神君伊賀越えで活躍したのは、知っていますが、織田や羽柴じゃなくて徳川を選ぶなんて変わった商人だなぁという印象でした。最終的に天下人になるので見事な慧眼と言えますが。
話は、足利義輝に四郎次郎が仕えるところから始まります。自分が好きだった将軍義輝とその側室小侍従を、三好三人衆と松永に殺されしまいます。感情が先走り、焦った上助けれなかった反省から、常に冷静に、先を見て、武としても商としても成長します。さらに諜報活動にも注力し、周囲の情報収集を怠らず、先々の不安を解消していくというスーパーマン的展開。ちょっと出来過ぎ。

6.死地奔槍

タイトルからは想像できないへっぽこ片桐且元が主人公!いい!
賤ヶ岳の七本槍と呼ばれた活躍の昔話を、秀頼のキラキラした瞳に見つめながらみんなの前でさせられるという羞恥プレーで始まります。現状の身上を鑑みれば、加藤や福島との差が歴然なのに...可哀想。
昔話は、大垣から木之本へ走って戻るマラソン中から始まります。市松、虎、権平と掛け合い漫才をしながら、ランナーズハイも満喫しつつ、仲良く走っていきます。松明の火を欠かさず、疲れた地点でのおにぎりの配置などの見事な佐吉の手配や、またそれを妬ましく思う、彼らの気持ちや人間関係もきっちり表現されています。
木之本へ着いてからは、佐久間盛政の追撃戦が始まりますが、柴田勝政の殿(しんがり)の見事さ(有能だったの!?)と、後退の機を見て一気攻勢をかける秀吉の神速の突撃。爽快感と現実(大阪城)のギャップにぐっときました…🌟3つ!

7.春の夜の夢

ほーねまで溶けるような~♪松任谷由美かなw
北条氏康の物語です。氏康といえば、有能アンド有能という印象です。舞台は有名な川越夜戦です。そもそも何であんな絶望的な状況になったのか不思議だったのですが、これを読んで、最悪のタイミングが重なったことが分かりました。
まず、北条家の跡継ぎ問題から。2代目から後継者選びで、勇猛な綱成を推す声がありました。ただ、彼は氏康の妹を娶っただけで、嫡子を差し置いて家督を取るなど以ての外と固辞します。ここに氏康と綱成の絶対的な信頼感が出来上がります。その後、氏康は、水陸の交通の要所川越を綱成に任せます。
そんな折、今川と和平交渉が決裂し、駿東へ攻めてきました。氏康も出陣し、こう着状態に入ります。武田も今川の援軍として参戦します。そんな中、川越は、扇谷・山内の両上杉家の大軍が川越を囲んでしまいます。援軍も出せない状況で、氏康はどうするのか...という展開です。単純に”有能”なんて簡単な言葉で表せられない、氏康の苦悩と苦労が垣間見える優秀作です。⭐️3つ!

まとめ

全部おもしろかったとは言いがたいですが、良作が少なくとも3作はあったので買いだと思います。短編は休憩時間などにサクッと読めるので好きです。