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長谷川等伯の小説ならコレ!魂を揺さぶる画家「等伯」がアツい!

長谷川等伯の生涯を描いた小説「等伯」を読んでみた

 

長谷川等伯ってどんな人?

歴史好きの人にとっては有名人ですが、一般人(美術好き以外)にはあまり知られていません。彼は、戦国時代真っ只中、狩野派が隆盛を極めていた時代に身一つで成り上がり、狩野派と肩を並べた絵師です。(どっちがすごいかは、画風が違うので単純に甲乙つけがたいかな)

豪華絢爛という言葉がぴったり似合う狩野派の絵は、派手好みの織田信長と豊臣秀吉にも重宝されました。対して長谷川等伯は、無駄を極力省き、禅の境地を取り入れる作風でした。その為、「侘び寂び」を求める茶の湯にも近く、千利休に気に入られ、彼らのグループの一員として活動するようになりました。政治的には、利休サイドだった為、後々苦しい立場に置かれますが、雪舟の後継者と自任するほどの腕前で絵師として名を馳せます。

彼の集大成として完成した絵が「松林図屏風」です。朝霧の立ち込めた砂浜に立つ松林の間を通り抜ける風を感じます。また、狩野派のような豪華な絵やお堂の天井に大きな龍の絵なども描いています。数多くの作品が残されていることから、いまでも楽しむことができます。

 

小説「等伯」について

安部龍太郎さんの作品で、2013年に「直木賞」を受賞した小説です。

【主要な登場人物】

・長谷川信春、(長男)久蔵
・畠山義続、義綱
・古渓宗陳(朝倉宗滴の子)
・関白近衛前久
・狩野松栄、永徳
・春屋宗園
・千利休
・前田玄以

【簡単なあらすじ】

生まれの能登七尾で絵仏師をしていた頃から話は始まります。主家畠山家との繋がり、京へ出て絵師としての腕を磨きたい思い、同時に家を大切に守っていきたい思いなど葛藤から始まります。

思わぬ形で京へ上れましたが、織田勢に睨まれ不自由な生活を余儀なくされます。畠山家の縁で、近衛前久を紹介してもらい彼の縁で、少しずつ有名になっていきます。一時、狩野派にも弟子入りできましたが、当主の狩野永徳とはウマが合いませんでした。

何とか自分の店を持ち、少しずつ売れていき、長谷川派を立ち上げました。その結果、狩野派とは、寺社・城の襖絵などでぶつかり、さらに対立を深めていきます。そこには単純に彼らの心情・プライドの対立だけではなく、裏では支援者たち(パトロン)の対立でもありました。

純粋に絵を描きたいだけでしたが、少しずつ「政治の波」と「実家の縁」に飲まれていきます。そこには、なんともやる瀬ない、悲しい現実も待っていました。

彼の絵は、彼自身の才能から発せられるものであり、まさに”天賦の才”と呼べるものでした。彼のその才は、息子には受け継がれず、息子は、努力次第で技量の獲得できる狩野派に惹かれました。そういったすれ違いも、悲しい結果を生む要因となりました。

彼の渾身の出来の絵は、全て自身の気持ち・思いが込めたものでした。どのように描いたのは本人にもわかっていない、まさに魂を混入した作品だったのです。常に「己の敵は己」であって、苦難の連続に立ち向かいながらも絵師として”業”に突き動かされ生き抜いた「孤高の天才」でした。

スポ根漫画を彷彿とさせる非常に熱い小説です。とても読みやすく、資料集やネットで彼の絵を見ながら読み進めて行くと非常に理解しやすいと思います。

 

等伯は、漫画「へうげもの」にも登場しています

余談ですが、長谷川等伯は、「へうげもの」にも登場しています。エラの張った四角い顔で出てきます。当時の織部には、その感性が伝わらず殺されかけます。反面、千利休には認められ、それ以降は、織部とは関わらないようになりました。もっと登場して欲しかったですが、残念でした。

水玉模様の襖を書いて怒られています

 

【レビュー】戦国秘史を読んでみた【歴史小説】

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目次

  • ルシファー・ストーン    伊東潤
  • 戦国ぶっかけ飯       風野真知雄
  • 伏見燃ゆ 鳥居元忠伝    武内涼
  • 神慮のまにまに       中路啓太
  • 武商諜人          宮本昌孝
  • 死地奔槍          矢野隆
  • 春の夜の夢         吉川永青

はじめに

歴史小説のアンソロジーです。
以前読んだ「関ヶ原」と「大坂城」がとても面白かったので、期待して買いました。
異なる作者ですので、すごいお得感があります。
また、短編小説ですので、マニアックなところを取り上げられるのも魅力です。
この目次だけ見ても、鳥居元忠以外は、何の話かさっぱり分かりませんねw

 

感想(ネタバレあり)

1.ルシファー・ストーン

いきなりダヴィンチコードみたいな雰囲気で始まります。
堕天使ルシファーの怨念のこもったキリスト教にとって忌むべき石が盗まれ、東洋の果て日本にたどり着き、その石を手にしたものは、ルシファーの力を得てキリスト世界を滅ぼしてしまうとか。そういったファンタジーな話です。
石は信長からその後の主要人物へ転々と渡って行き…といった流れですが、私はあんまりでした。伊東さんの他の作品は好きなだけに、ちょっと残念。

2.戦国ぶっかけ飯

こんなグルメなタイトルの歴史小説初めて見ましたw
ある意味、グルメを極めてシリーズ化したら売れそうなタイトルです。
信長時代の羽柴が毛利を攻めている頃の毛利サイドの話です。
三木城のように、家臣たちを苦しめたくない姫が取ったグルメ作戦!
なかなか奇をてらった面白小説でした。

3.伏見燃ゆ 鳥居元忠伝

やっとまともな歴史小説が来ました!(コラ
タイトルを見てわかるように、関ヶ原の前哨戦、伏見城で籠城した鳥居元忠の話です。家康の人質時代から仕えてきたふるーい家臣です。辛かった駿府時代を半蔵などと共に過ごし、他の家臣たちとは次元の違う結びつきを持っていました。
ワタリ衆と呼ばれた、船を家として河川などを自在に渡って生活をする者たちを率い、その親分が鳥居元忠だそうです。そういう荒くれ者と共に、見事に伏見城の攻防戦となります。さらに、元忠の側室となった馬場民部の娘も絡んできて、話に深みを持たせます。
どうしても関ヶ原の戦に注目してしまいますが、これからはこの伏見城と京極姉弟の大津城の戦いなど詳しく調べていきたいと思いました。

4.神慮のまにまに

「宙のまにまに」のような”萌え”を彷彿させますが、全然違うおっさんくさい内容でした。主人公はなんと甲斐宗運!!キター!マニアックぅぅぅ!
信長の野望で、やたら強いハゲです。この人の話は全然知らなかったので、これはと期待して読みました。
宗運は、阿蘇家の軍師。しかも歴戦負けなしの大軍師。見事な軍略と外交で戦国の世を渡ってきました。長い間、北は大友家、南は相良家と結び、この同盟策が大いに功を奏しました。ところが大友が耳川の戦いで島津家に敗れてから潮目が変わります。宗運自身も、己の内なる神の声が聞こえなくなり、自信を失います。そんな中、相良家は島津に攻められ…と続きます。
悩みながら最善の策に苦悩する軍師、全く苦悩のかけらも心も通じない家族との掛け合い…お、面白い…⭐️3つ!

5.武商蝶人

徳川家の顧問商人として活躍した茶屋四郎次郎の話です。
神君伊賀越えで活躍したのは、知っていますが、織田や羽柴じゃなくて徳川を選ぶなんて変わった商人だなぁという印象でした。最終的に天下人になるので見事な慧眼と言えますが。
話は、足利義輝に四郎次郎が仕えるところから始まります。自分が好きだった将軍義輝とその側室小侍従を、三好三人衆と松永に殺されしまいます。感情が先走り、焦った上助けれなかった反省から、常に冷静に、先を見て、武としても商としても成長します。さらに諜報活動にも注力し、周囲の情報収集を怠らず、先々の不安を解消していくというスーパーマン的展開。ちょっと出来過ぎ。

6.死地奔槍

タイトルからは想像できないへっぽこ片桐且元が主人公!いい!
賤ヶ岳の七本槍と呼ばれた活躍の昔話を、秀頼のキラキラした瞳に見つめながらみんなの前でさせられるという羞恥プレーで始まります。現状の身上を鑑みれば、加藤や福島との差が歴然なのに...可哀想。
昔話は、大垣から木之本へ走って戻るマラソン中から始まります。市松、虎、権平と掛け合い漫才をしながら、ランナーズハイも満喫しつつ、仲良く走っていきます。松明の火を欠かさず、疲れた地点でのおにぎりの配置などの見事な佐吉の手配や、またそれを妬ましく思う、彼らの気持ちや人間関係もきっちり表現されています。
木之本へ着いてからは、佐久間盛政の追撃戦が始まりますが、柴田勝政の殿(しんがり)の見事さ(有能だったの!?)と、後退の機を見て一気攻勢をかける秀吉の神速の突撃。爽快感と現実(大阪城)のギャップにぐっときました…🌟3つ!

7.春の夜の夢

ほーねまで溶けるような~♪松任谷由美かなw
北条氏康の物語です。氏康といえば、有能アンド有能という印象です。舞台は有名な川越夜戦です。そもそも何であんな絶望的な状況になったのか不思議だったのですが、これを読んで、最悪のタイミングが重なったことが分かりました。
まず、北条家の跡継ぎ問題から。2代目から後継者選びで、勇猛な綱成を推す声がありました。ただ、彼は氏康の妹を娶っただけで、嫡子を差し置いて家督を取るなど以ての外と固辞します。ここに氏康と綱成の絶対的な信頼感が出来上がります。その後、氏康は、水陸の交通の要所川越を綱成に任せます。
そんな折、今川と和平交渉が決裂し、駿東へ攻めてきました。氏康も出陣し、こう着状態に入ります。武田も今川の援軍として参戦します。そんな中、川越は、扇谷・山内の両上杉家の大軍が川越を囲んでしまいます。援軍も出せない状況で、氏康はどうするのか...という展開です。単純に”有能”なんて簡単な言葉で表せられない、氏康の苦悩と苦労が垣間見える優秀作です。⭐️3つ!

まとめ

全部おもしろかったとは言いがたいですが、良作が少なくとも3作はあったので買いだと思います。短編は休憩時間などにサクッと読めるので好きです。

【歴史漫画】風雲児たち第2巻読んでみた【敗残者たち】

風雲児たち第2巻のレビューです。

第1巻のレビューはこちらです

 ・・・ 関ヶ原後 ~ 大阪の陣 ・・・

関ヶ原での敗残者たちの話が続きます。

まず、毛利家は、新しい拠点「萩」を目指します。
萩は猫の額のように狭い土地。しかも瀬戸内海側でなく、日本海側です。
新しく発展するには非常に厳しい環境からスタートします。

毛利輝元

毛利輝元

 

島津家は、徳川を警戒して薩摩に初めて城を築きます。
そんな折、逃亡していた宇喜多秀家が薩摩へ訪れます。
島津家の懸命な助命嘆願が実り、宇喜多は死刑から八丈島へ島流しとなりました。八丈島へ初めて流された罪人1号です!おめでとう。
薩摩武士たちは、示現流の剣法を広め、ますます荒ぶっていきます。
さらなる勢力拡大を目論み、琉球を武力攻略しちゃうのです。

 

土佐では、新しい領主として「山内一豊」が入ります。

山内一豊と松

山内一豊と松

武功ではなく、ハッタリ・ゴマ擦り・夫婦の力で見事に立身出世した人物として有名ですね。この山内一豊は、懐かない長曾我部旧臣に手を焼きます。
そして懐柔策を取らずに、言うことを聞かない無法者たちに策を弄して一網打尽にしてしまいます。山内家の家臣と長曾我部旧臣との間に、上士下士という絶対的な身分制度を設けます。自国の領土でありながら、ひどい仕打ちを受け、
あまつさえ、関ヶ原で何一つ手出しをしなかったのにこの有り様ということで、
そんな怨みが、下士に代々受け継がれることになります。

 

次は、岡山城へ入った小早川秀秋。

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なんというアホ面

勝者でありながら、裏切り者のため、世間から後ろ指を指される状況に、
発狂してか、すぐ死んでしまいます。
秀秋は、裏切った理由として、三成ではなく、太閤が憎かったのだとこぼしています。
秀保・秀勝の無残な死に様(死んだ後の措置も含め)を見て、さもありなんと思ってしまいます。

 

徳川家は、家康から秀忠に将軍の座を譲ります。
豊臣家へ政権を渡さないと毅然とアピールをしたわけです。
秀忠は、大阪との関係冷え込みで、妻お江とも喧嘩が絶えなくなります。
そんな中、一目惚れしたのは、侍女の静たん…ドキ❤️

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本当の愛を知った秀忠ですが、残念ながら静たんは城を出て行きます。
この後、秀忠は、将軍として一人前の男として一皮剥けるのです(ズルッ

静たんは、出て行ったあと、実家で暮らしていたのですが、なんと将軍秀忠の子を身ごもっていました。将軍家は、秘密裏に彼女たちを匿います。

 

徳川家康と豊臣秀頼との会談後、秀頼の成長に危機感を覚えた家康は、
なりふり構わず、豊臣家を滅ぼす方策を急ピッチに進めます。

とうとう、徳川が豊臣を攻めるときが来ましたが、各大名は、すでに豊臣を応援する武力も財力も勇気もないのであります。結局浪人しか寄せ集められない大阪側の敗北が目にみえるのです。

⇒風雲児たち第3巻のレビューへ続く